浅草寺と待乳山聖天のおみくじ「観音くじ・元三大師くじ」の研究

著者・田中(あらいちゅー)の自画像田中(あらいちゅー), 馬主で大家で占い師田中(あらいちゅー) @araichuu Twitter

浅草寺と待乳山のおみくじは凶ばっかり出る?

観音くじ

浅草寺や待乳山聖天のおみくじは凶が多い、という話を聞いたことはないでしょうか。実際に引いてみるとポンポン凶が出るうえ、解説文もシビアで甘くなく、妙なリアリティがあります。他の寺社仏閣のおみくじとは一味違うんですね。

個人的には結果が厳しいぶん当たると思っているのですが、サービス精神のない(?)このおみくじの正体を知りたいという人も多いようです。というわけで今回は、浅草寺で使われているおみくじ「観音くじ」と、その大元である「元三大師くじ」についてのお話です。

待乳山聖天の「観音くじ」には易卦が振られている?

待乳山聖天では、本堂の下陣脇で「観音くじ」というおみくじを引くことができます。

100円を賽銭箱に入れて、筮筒のようなものから竹の棒を振り出して、棒に書かれた番号の紙を後ろの小棚から自分で持ってくる、という形式です。浅草寺でも香炉の脇に同じようなブースがあります。

紙には漢詩が書いてあり、一応「吉」「凶」といった判定や解釈も書いてはあるのですが、漢詩が難解で、それだけでは正直何が言いたいのかイマイチよくわかりません。

そこで筮筒脇に置いてある「観音籤」と書かれた解説書を読む…のですが、何とこの解説書、おみくじの番号に易卦を割り振ってあるのです。しかも、易卦は合計で64卦しかないのですが、このおみくじは1番から100番まであります。果たしてこれは占いなのでしょうか、おみくじなのでしょうか?

「観音くじ」は中国のおみくじだった!?

実は、浅草寺や待乳山さんのおみくじは奇異なものでも、異端なものでもありません。これは「観音くじ」もしくは「元三大師くじ」と呼ばれているもので、仏閣でのおみくじとしては結構ポピュラーなものなのです。実際のところ、天台宗系の寺院では(体裁は違うものの)ちょくちょく見かけます。

この観音くじのルーツですが、中国で流行していた「天竺霊籤」と呼ばれるおみくじが日本に輸入され、それを天台宗の高僧・良源(右写真・wikipediaより引用)が整理したものだと言われています。ここから「観音くじ」という呼び名のほか、良源の通称である「元三大師」の名をとって「元三大師くじ」とも呼ばれています。

※「天竺霊籤」が起源なのではなく、良源が観音さまに祈念して偈文を授かったものが起源だ、という主張もあります。

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面白いことに、この観音くじを全国に広めたのは、徳川家康に仕えた高僧・天海大僧正だという伝説があります。天海は夢の中で崇敬する良源に出会い、「すごいおみくじセットが戸隠に隠してあるので、万民救済のため探し出して広めるように」と言われ、さっそく戸隠に人を派遣してこれを持ち帰ったそうです。どこまで本当なのかはわかりませんが…。

要するに、良源が中国のおみくじを整理して戸隠の山中に隠し、それを天海が持ち帰って日本中に広めたものが「天竺霊籤」であり、浅草寺や待乳山のおみくじのルーツなのではないか、という話なのです。このあたりは早大院で東洋美術史を修めた中村公一先生の「一番大吉!―おみくじのフォークロア (あじあブックス)」に詳しいので、興味のある方は読んでみてください。

どうして解説書に易卦が振ってあるのか

前掲書の中村先生によると、江戸初期のおみくじは寺社で数字の書かれた竹棒を引くだけのもので、結果の書いてある紙はもらえなかったそうです(これは香港や台湾のおみくじと同じ形式ですね)。そこで参拝者は自分でおみくじの解説書を持参して、出た数字に対応するお告げを調べるというスタイルに落ち着いたのだとか。そういった経緯で、おみくじの解説書が多数市販されるようになったんですね。

要するに、そういった解説書の一つに易卦を用いておみくじを説明したものがあり、それが待乳山さんに備え付けられていた、というのが事の真相なのでしょう。

ちなみに、待乳山さんの解説書はボロボロで表紙が無いためよくわからないのですが、この解説書は江守録輔氏の『周易対照観音籤新釈』(昭和7年刊)という本です。古本屋で買うと2万円くらいしますが、最近になって復刻再販されたので、占術専門の書店であればそれほど高くない値段で手に入れることができます。気になる方は店頭で尋ねてみてください。

凶が全部、凶ではない!?

おみくじの解説書が何種類もあるということは、「観音くじ」に書かれた漢詩1つに対して、どういう意味なのか、吉なのか凶なのかの見解が分かれていると言うことです。

漢詩を前半と後半に分けて、時間の流れに合わせて判断するという易のような技法(?)もあったようで、吉なのか凶なのか解りにくい漢詩や、前半と後半で雰囲気が大きく異なる漢詩などは、解釈が入り乱れて相当カオスなことになっているようです。

おみくじの解釈ってどうやるの!?

「じゃあ、俺の引いたこの61番は一体何なんだ!」「どの本の解釈が正しいんだ!」

…といったお声をいただきそうですが、実に頭の痛いところです。あくまで「引いたお寺に備え付けられている本」や「引いたお寺の紙に書かれた吉凶」を信じるか、もしくは自分で漢詩の解釈をするかです。個人的には、本を参考にして、自分で漢詩を解釈するのがよいかなあ、と思います。

もともと観音くじは「ご真言を千回と観音経を3回唱えた後に引く」「僧侶に観音経を読経してもらって引く」という気合いの入ったものだったらしく、「験」の出るときは、問いたい内容がおみくじの中の漢詩に反映されることが多いと思います。こういう時は、おみくじに書かれた吉凶よりも、漢詩の内容を参考にした方がいいのかもしれません。高島流の周易のようなものでしょうか。

そこから考えると、おみくじを引く前に観音さまや聖天さまの勤行をしたり、ご真言を唱えたり、観音経を読んでから引くと、いつもより「験」が出やすいのかもしれませんね。

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